はじめに
身の回りの電子機器には必ずと言って良いほど増幅回路が使われていますが、増幅回路は普通トランジスタという半導体素子で作られています。
IC化された増幅器も微細化されたトランジスタで構成されています。
しかしトランジスタはそれ単独で増幅動作を行うことはできません。
トランジスタを使うためには、電源や抵抗などを含めた回路設計が必須となります。
電源電圧や抵抗値は入力信号や出力信号の振幅などに応じて決定する必要があります。
そこで本記事では、増幅回路でよく利用されるバイポーラトランジスタの使い方を学ぶため、バイポーラトランジスタの代表的なバイアス回路の直流動作について説明し、計算問題を解きます。
基本的にトランジスタを動作させるには入力側と出力側の両方に直流電圧を加えておく必要がありますが、バイアス回路を使うと単一の直流電源で入力側と出力側の両方に直流電圧を加えることができます。
本記事のバイアス回路は入力信号が無信号の状態のエミッタ接地増幅回路と本質的に同じもので、トランジスタ回路の基本形とされています。
0. トランジスタの性質
まずは回路計算の前提知識となるトランジスタの3つの性質を整理します。
1つ目は、エミッタ電流 IE はベース電流 IB とコレクタ電流 IC の和となるというものです。
これは接地方式に関わらず一般に成り立ちます。
IE=IB+IC
2つ目は以降で扱うエミッタ接地回路の性質であり、次式で表されます。
IC=hFEIB+ICEO
ここで hFE はエミッタ接地における直流電流増幅率であり、βF と書くこともあります1。
上式は、コレクタにはベース電流 IB を hFE 倍した電流が流れることを示しています。
第2項の ICEO はエミッタ接地におけるコレクタ遮断電流(ベース開放時にコレクタ-エミッタ間に流れる漏れ電流)です2。
この ICEO は第1項より十分小さくなる3ことからしばしば無視され、通常の計算では以下の関係式が用いられています。
IC=hFEIB
ただし、hFE の値には個体差が存在し、しかも温度によって変化します。
また IC によっても変化するため、物理的には IC と IB は厳密には比例しません。
3つ目に重要なのは、PN接合であるベース-エミッタ間はダイオードと同じ電流-電圧特性を示すことです。
実際、順方向電流が流れているときベース-エミッタ間電圧 VBE は約 0.6~0.7 V となります(シリコントランジスタの場合)4。
またベースに過電流を入力すると、LEDに保護抵抗なしで電池を接続した時と同様に、トランジスタは壊れてしまいます。
1. 固定バイアス回路
単一電源でトランジスタを駆動させる最も単純な回路です。

回路の外周に着目すると、ベース-エミッタ間に印加されるバイアス電圧 VBE は次式で表されます。
VBE=VCC−RBIB
動作と安定度
上式より、ベース電流は IB=(VCC−VBE)/RB で与えられます。
また、IC=hFEIB の関係から、コレクタに接続された抵抗 RC にはベース電流の hFE 倍の電流が流れます。
固定バイアス回路の安定度は悪いです。
hFE は高温になるほど上昇するという関係があるのに対し、hFE の変化による IC の増加を防ぐ機能が備わっていないからです。
安定度が悪い回路では、以下の悪循環に陥って回路が熱暴走する恐れがあります。
- 温度上昇によって hFE が上昇する
- IC=hFEIB より、IC が増加する
- コレクタ損失5が増加し、接合部の温度がさらに上昇する(1に戻る)
熱暴走は最終的にトランジスタの破壊を引き起こす危険な現象なので、注意が必要です。
練習問題1
下図のトランジスタ回路について、以下の問いに答えよ。
(1) IE=5.6mA のとき、IB、IC を求めよ。ただし hFE=100 とする。
(2) コレクタ抵抗 RC=2.2kΩ に IC=3mA を流すためには、RB をいくらにすればよいか。ただし、VCC=12V、VBE=0.6V、hFE=200 とする。

(1)の解説
IE=IB+IC=IB+hFEIB より
IB==hFE+1IC1015.6×10−3≈0.0554×10−3≈55μA
コレクタ電流は
IC=≈IE−IB(5.6−0.0554)×10−3≈5.54×10−3≈5.5mA
※ 計算結果のように、トランジスタでは IB≪IC より IE=IB+IC≈IC が成立します。
IE≈IC
(2)の解説
IB=IC/hFE がベースに流れるよう、抵抗 RB を定めます。
RB==IBVCC−VBE=hFE⋅ICVCC−VBE200×3×10−312−0.6=200×3.8×103=760kΩ
※ 図の右側の閉路に対してキルヒホッフの法則を適用すると、RC の値からエミッタ-コレクタ間電圧 VCE が計算できます。
VCE==VCC−RCIC12−2.2×103×3×10−3=5.4V
2. 自己バイアス回路
抵抗の数は同じながら、負帰還によって安定度を高めたバイアス回路です。

抵抗 RC を流れる電流は IB+IC のため、回路の外周に着目すると、ベース-エミッタ間のバイアス電圧 VBE は次式で表されます。
VBE=VCC−RC(IB+IC)−RBIB
動作と安定度
上式より、IB=(VCC−VBE−RCIC)/(RB+RC) がベースに流れ込みます。
また、IC=hFEIB の関係から、抵抗 RC にはベース電流の hFE+1 倍の電流が流れます。
自己バイアス回路は、温度上昇で hFE が上昇すると IC の増加を抑制するように動作します。
hFE の上昇で IC が増加すると、RC の電圧降下が増大する一方、RB の電圧降下が減少するため、IB も減少するという仕組みです。
以下はこれを数式ベースで説明したものです。
- 温度上昇によって hFE が上昇する
- IC=hFEIB より、IC が増加する
- IB=(VCC−VBE−RCIC)/(RB+RC) より、IB が減少する
- IC=hFEIB より、IC が減少する
この負帰還という働きにより、自己バイアス回路の安定度は固定バイアス回路より向上しています。
練習問題2
下図のトランジスタ回路について、コレクタ抵抗 RC=2.2kΩ に IC=3mA を流すためには、RB をいくらにすればよいか。ただし、VCC=12V、VBE=0.6V、hFE=200 とする。

解説
IB=IC/hFE がベースに流れるよう、抵抗 RB を定めます。
VBE=∴ RB====VCC−{RB+(hFE+1)RC}IBIBVCC−VBE−(hFE+1)RChFE⋅ICVCC−VBE−(hFE+1)RC200×3×10−312−0.6−201×2.2×103(760−442.2)×103=317.8×103≈320kΩ
※ 練習問題1(2)と同様にして、RC の値からエミッタ-コレクタ間電圧 VCE を求めることができます。
VCE===VCC−RC(IB+IC)VCC−hFEhFE+1⋅RCIC12−200201×2.2×103×3×10−3=5.367≈5.4V
安定度の比較
IC=hFEIB より、自己バイアス回路のコレクタ電流は次式で計算できます。
IC=RB+(hFE+1)RChFE(VCC−VBE)
練習問題1(2)と練習問題2で計算した固定バイアス回路と自己バイアス回路で、hFE が 200 から 1.5 倍の 250 に上昇したときのコレクタ電流 IC と、その増加率を下の表に示します。
| hFE | 固定バイアス回路 | 自己バイアス回路 |
|---|
| 200 | 3.0 mA | 3.0 mA |
| 250 | 4.5 mA | 3.3 mA |
| 増加率 | 50% | 9% |
固定バイアス回路の場合は hFE が 50% 増加すれば IC も 50% 増加しますが、自己バイアス回路では増加率が低く抑えられています。
見比べると負帰還の効果が一目瞭然です。
ただし、RB≫(hFE+1)RC の条件下では上式のコレクタ電流が IC≈hFE(VCC−VBE)/RB となり、無帰還の固定バイアス回路の式に近似的に等しくなります。
つまり、RB が高すぎる場合や RC が低すぎる場合は帰還が働きにくくなることがあります。
3. 電流帰還バイアス回路
抵抗が4個に増えますが、安定度が3つのうちで最も高いバイアス回路です。

この回路を読み解くときは IB≪I2、すなわち、他より相対的に小さいベースに流れ込む電流を無視すると仮定して考えます。
この仮定を置くだけで、I1=I2+IB≈I2 より、ベースに与えられる電位 VB を近似的に以下の分圧式で表せるようになります。
VB≈R1+R2R2VCC
回路設計の際はベース電流を無視する仮定を満たすよう、I1≥10IB となるようにすると良いとされています6。
また、回路図の左下の閉路に着目するとベース-エミッタ間バイアス電圧 VBE は以下の式で表されます。
VBE=VB−REIE
動作と安定度
R1 と R2 によって決まるベース電位からバイアス電圧 VBE を引いた電圧がエミッタに接続された抵抗 RE の電圧降下となります。
オームの法則からエミッタ電流 IE が決まり、IC≈IE(練習問題1(1)参照)よりコレクタにも同程度の電流が流れます。
このように電流帰還バイアス回路では、hFE によらず電流・電圧を計算することができます。
電流帰還バイアス回路も自己バイアス回路のように、hFE の上昇時に IC の増加を防ぐ負帰還の仕組みを備えています。
- 温度上昇によって hFE が上昇する
- IC=hFEIB より、IC が増加する
- IE≈IC より、IE も増加する
- RE の電圧降下 REIE が増大する
- VBE=VB−REIE より、VBE が減少する
- ベース-エミッタ間の電流-電圧特性4より、IB が減少する
- IC=hFEIB より、IC が減少する
R1 と R2 によって VB が固められているので、IC が増加しても VBE が確実に低下します。
したがって、電流帰還バイアス回路は自己バイアス回路よりも高い安定度を有しています。
練習問題3
具体的な回路の動作を見積もってみます。
下図のトランジスタ回路において、R1=56kΩ、R2=22kΩ、RC=4kΩ、RE=2kΩ、VCC=9V のとき、(1) ベース電位 VB、(2) エミッタ電位 VE、(3) コレクタ電流 IC、(4) コレクタ電位 VC、(5) コレクタ-エミッタ間電圧 VCE、(6) コレクタ損失5 PC を求めよ。
ただし、VBE=0.6V、hFE=200 とし、IC≈IE、I1≈I2 が成り立つものとする。

解説
(1) I1≈I2 より
VB≈=R1+R2R2VCC56+2222×9≈2.53≈2.5V
(2) VBE=0.6V より
VE=≈VB−VBE2.53−0.6=1.93≈1.9V
(3) IC≈IE より
IC≈≈IE=REVE2×1031.93=0.965×10−3≈0.97mA
(4)
VC=≈VCC−RCIC9−4×103×0.965×10−3=5.14≈5.1V
(5)
VCE≈≈VC−REIC5.14−2×103×0.965×10−3=3.21≈3.2V
(6)
PC=≈VCEIC3.21×0.965×10−3≈3.1mW
※ 問題文にある近似の妥当性を確認します。
まず、IC≈IE は hFE の値が大きいため妥当といえます(練習問題1(1)を参照)。
次に、ベース電流は IB=IC/hFE≈4.8μA である一方、R1 や R2 にはおよそ VCC/(R1+R2)≈120μA の電流が流れます。
これはベース電流の20倍以上であることから、IB≪I2 の仮定を満足し、I1≈I2 は妥当であると判断できます。
おわりに
トランジスタ1個で動作する固定バイアス回路、自己バイアス回路、電流帰還バイアス回路の直流動作を数式を交えてまとめました。
回路を設計できるようになるには回路が読めないといけないということで、回路を読むための考え方を学びました。
ところで、ここまで行ってきた練習問題や回路計算では「VBE の順方向電圧は一定」の他にも、暗黙のうちに以下のことを仮定していました。
- hFE が IC に依存しない
- VCE が変動しても IC は変わらない
これらの仮定は果たして物理的に妥当といえるのでしょうか。
次回があれば、そうしたことも考えてみたいと思います(2026/06/06追記:続編の記事を書きました)。
回路図のソースコード
回路図は CircuiTikZ を用いて LATEX で作成しています。
ソースコードは以下のとおりです。
固定バイアス回路 (fixed.tex)
% Fixed Bias Circuit
\documentclass[border=3mm]{standalone}
\usepackage{tikz}
\usepackage{circuitikz}
\usetikzlibrary{positioning}
\ctikzset{transistors/arrow pos=end}
\usepackage{newtxtext,newtxmath}
\pagecolor{white}
\begin{document}
\begin{tikzpicture}
\draw (0,0) node[npn](Tr) {} node[right=1mm of Tr] {Tr};
\draw[thick] ($(Tr)-(0.35,0)$) circle [radius=13pt];
\draw[red, latex-] (-1.2,-0.3) arc[x radius=1, y radius=1, start angle=200, delta angle=60]
node[below left] {$V_\mathrm{BE}$};
\draw(Tr.E)
to[short, f^=$I_\mathrm{E}$] ++(0,-0.1)
to[short] ++(0,-0.4)
coordinate(tmp4) % above Re
to[short] ++(0,-2)
coordinate(tmp3) % below Re
to[short] ++(3,0)
to[battery2, invert, l_=$V_\mathrm{CC}$] ++(0,6.5)
to[short] ++(-3,0)
coordinate(tmp1) % above Rc
to[european resistor, l_=$R_\mathrm{C}$] ++(0,-2)
coordinate(tmp2) % below Rc
to[short] ++(0,-0.4)
to[short, f=$I_\mathrm{C}$] (Tr.C);
\draw(tmp1)
to[short, *-] ++(-3,0)
to[european resistor, l_=$R_\mathrm{B}$] ++(0,-2)
to[short] ++(0,-0.4)
to[short, f_=$I_\mathrm{B}$] ++(0,-0.1) |- (Tr.B);
\end{tikzpicture}
\end{document}
自己バイアス回路 (collector-feedback.tex)
% Collector Feedback Bias Circuit
\documentclass[border=3mm]{standalone}
\usepackage{tikz}
\usepackage{circuitikz}
\usetikzlibrary{positioning}
\ctikzset{transistors/arrow pos=end}
\usepackage{newtxtext,newtxmath}
\pagecolor{white}
\begin{document}
\begin{tikzpicture}
\draw (0,0) node[npn](Tr) {} node[right=1mm of Tr] {Tr};
\draw[thick] ($(Tr)-(0.35,0)$) circle [radius=13pt];
\draw[red, latex-] (-1.2,-0.3) arc[x radius=1, y radius=1, start angle=200, delta angle=60]
node[below left] {$V_\mathrm{BE}$};
\draw(Tr.E)
to[short, f^=$I_\mathrm{E}$] ++(0,-0.1)
to[short] ++(0,-0.4)
coordinate(tmp4) % above Re
to[short] ++(0,-2)
coordinate(tmp3) % below Re
to[short] ++(3,0)
to[battery2, invert, l_=$V_\mathrm{CC}$] ++(0,6.5)
to[short] ++(-3,0)
coordinate(tmp1) % above Rc
to[european resistor, l_=$R_\mathrm{C}$] ++(0,-2)
coordinate(tmp2) % below Rc
to[short] ++(0,-0.4)
to[short, f=$I_\mathrm{C}$] (Tr.C);
\draw(tmp2)
to[european resistor, l_=$R_\mathrm{B}$, *-] ++(-3,0)
to[short, f_=$I_\mathrm{B}$] ++(0,-1.2) |- (Tr.B);
\end{tikzpicture}
\end{document}
電流帰還バイアス回路 (voltage-divider.tex)
% Voltage Divider Bias Circuit
\documentclass[border=3mm]{standalone}
\usepackage{tikz}
\usepackage{circuitikz}
\usetikzlibrary{positioning}
\ctikzset{transistors/arrow pos=end}
\usepackage{newtxtext,newtxmath}
\pagecolor{white}
\begin{document}
\begin{tikzpicture}
\draw (0,0) node[npn](Tr) {} node[right=1mm of Tr] {Tr};
\draw[thick] ($(Tr)-(0.35,0)$) circle [radius=13pt];
\draw[red, latex-] (-1.2,-0.3) arc[x radius=1, y radius=1, start angle=200, delta angle=60]
node[below left] {$V_\mathrm{BE}$};
\draw(Tr.E)
to[short, f^=$I_\mathrm{E}$] ++(0,-0.1)
to[short] ++(0,-0.4)
coordinate(tmp4) % above Re
to[european resistor, l_=$R_\mathrm{E}$] ++(0,-2)
coordinate(tmp3) % below Re
to[short] ++(3,0)
to[battery2, invert, l_=$V_\mathrm{CC}$] ++(0,6.5)
to[short] ++(-3,0)
coordinate(tmp1) % above Rc
to[european resistor, l_=$R_\mathrm{C}$] ++(0,-2)
coordinate(tmp2) % below Rc
to[short] ++(0,-0.4)
to[short, f=$I_\mathrm{C}$] (Tr.C);
\draw(tmp1)
to[short, *-] ++(-3,0)
to[european resistor, l_=$R_1$] ++(0,-2)
to[short] ++(0,-0.4)
to[short, f_=$I_1$] ++(0,-0.1) |- (Tr.B)
node[pos=0.5, coordinate] (tmp5) {};
\draw(tmp5) to[short, f=$I_\mathrm{B}$, *-] (Tr.B);
\draw(tmp3)
to[short, *-] ++(-3,0)
to[european resistor=$R_2$] ++(0,2)
to[short, f^<=$I_2$] (tmp5);
\end{tikzpicture}
\end{document}