日韓朝の放送が混在していた75mバンド、3.9MHz帯の話
3.9MHz帯を含む75mb(メーターバンド)は一応短波に分類されますが、周波数が中波 (300kHz~3MHz) に近いので、電波伝搬の特性はAMラジオに近く、日没以降になると色々な放送が受信できました。
そこは日本のラジオNIKKEIが放送している周波数のすぐ隣で韓国の北朝鮮向け放送が流れていたり、ダイヤルを少し回せば今度は北朝鮮が韓国に向けて送出している放送が聞こえてきたりと、まあ凄まじいバンドでした。
そんな朝鮮半島の宣伝戦を象徴するバンドにスイッチを合わせ、ラジオをつけてみましたが、今そこにかつての面影はありません。
消えた心理戦放送たち
下表は2016~2023年に3.9MHz帯で受信できた主な放送局の周波数リストです。
日本 (JP) のラジオNIKKEI第1のわずか5kHz隣で韓国 (KR) の対北放送があったり、ラジオNIKKEI第2と同じ周波数で公然と北朝鮮 (KP) が対南放送を送出していたりという有様でした。
| 周波数 (kHz) | 所在地・放送局 | 2025年現在 |
|---|---|---|
| 3910 | KR 人民の声放送 | 消滅 |
| 3925 | JP ラジオNIKKEI第1 (JOZ4, JOZ) | 存続中 |
| 3930 | KR 人民の声放送 | 消滅 |
| 3945 | JP ラジオNIKKEI第2 (JOZ5) | 基本的に出番なし |
| 3945 | KP 統一のこだま放送 | 消滅 |
| 3959 | KP 朝鮮中央放送 | 存続中 |
| 3970 | KP 統一のこだま放送 | 消滅 |
| 3985 | KR 希望のこだま放送 | 消滅 |
しかし2024年1月、北朝鮮が韓国に向けて放送していた統一のこだま放送(《통일의 메아리》방송)が対南政策の転換に伴い放送を停止しました。
それから1年以上が経った2025年7月、今度は韓国の国家情報院が動き、北朝鮮に向けて放送していた人民の声放送(인민의 소리 방송)と希望のこだま放送(희망의 메아리 방송)を停止しました1。
南北双方の心理戦放送が止まったことで、今3.9MHz帯が静まり返っているのです。
3.9MHz帯の現状を見てきたところで、ここからはこのバンドで一番記憶に残っている、ある混信問題について書いていきます。
ラジオNIKKEIと統一のこだま放送の混信
ラジオNIKKEI第2は平日に「Rani Music♪」(2018年3月までは「RN2」)というプログラムを編成しており、邦楽と洋楽を中心とした音楽をノンストップで放送しています。 ニュースなどがないため放送時間に占める音楽の比率は朝鮮中央放送よりも高く、新曲も積極的に放送されているため、日本歌謡の鑑賞にはもってこいの放送局です。
そのラジオNIKKEI第2(以下「JOZ5」)と3945kHzで一時期激しく混信していたのが、平壌時間で毎晩21時~23時まで放送していた統一のこだま放送でした。
統一のこだま放送は北朝鮮が毎日朝昼晩、2時間ずつ韓国に向け短波やFMで放送していたラジオ局です。 平壌放送よりも放送員の口調が柔らかかったことが特徴でした。 3945kHzで放送していた統一のこだま放送は、JOZ5と互角かそれ以上の強さで混信していました。
2016年時点で同局は、当時の3970, 5905, 6250kHzで放送しており、局の公式ホームページにもこれらの周波数が掲載されていました2。
ところが2017年11月、統一のこだま放送がホームページに記載のない3945kHzを使用して放送していることが確認されました3。
そして、2018年に公開された冬季周波数の告知で、公式サイトにも3945kHzが掲載されました4。 翌年にも同様の告知が出ていたことから、冬季の公称周波数としての利用が常態化していることが確認できます5。
一方、JOZ5は2018年10月にいわゆる「6MHz帯を中心とした放送送信体制」6に移行してから、下表に示すように徐々に運用を縮小していきました。
| 時期 | 運用開始 | 運用終了 | 備考 |
|---|---|---|---|
| ~2018年9月 | 8:00 | 23:00 | 19時まで6115kHzと同時放送、17時までは9760kHzとも同時放送 |
| 2018年10月~ | 19:00 | 23:00 | 19時までは6115kHzでのみ放送 |
| 2019年4月~ | 19:00 | 21:30 | 「RN2」から「Rani Music♪」への改編に伴い時間短縮 |
| 2020年1月~ | 19:00 | 20:30 | 改編で放送時間がさらに短縮 |
| 2020年7月~ | 放送なし | 放送なし | 改編で放送終了が19時に早まったため |
統一のこだま放送の放送時間が平壌時間で21時~23時まで7だったため、2018年10月時点ではまだJOZ5の運用時間と完全に被っています。
ですが、2019年4月と2020年1月の2度の放送終了時刻繰り上げにより、JOZ5と統一のこだま放送が混信することはなくなりました。
このように、3.9MHz帯をめぐる日朝間の混信問題はJOZ5の運用縮小によって終わりました。
これは私見なのですが、以前投稿した断想「消えた2局を懐かしむ」で触れたように、2019年度からのJOZ5の放送時間短縮は、統一のこだま放送による混信が一因だったのではないかと考えています。 少なくとも当時、社内で議題に上がったのは間違いないと思います。
おわりに
今回は、人民の声放送・希望のこだま放送の休止によって静まり返った3.9MHz帯の現状と、3945kHzでの日朝両局の混信について書きました。
心理戦放送といえど、一つのバンドから放送局がごっそり消えていくのは切ないものです。 今後予定されている民放AM局のFM転換で、より多くのラジオ愛好家の方々がこれと似たような思いをすることになるのでしょう。
さて、現在もKBS韓民族放送(KBS 한민족방송)や自由北朝鮮放送(자유북한방송)などの対北放送が短波で存続しています。 インターネット配信も実施しているので、これからも対北放送をラジオとネットの両方でチェックしていきたいと思います。
放送時間が平日8時30分~19時までというのがネックですが、Rani Music♪もできれば短波で聴きたいですね。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
脚注・関連リンク
Footnotes
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北朝鮮の韓国向けラジオ14件中止に…韓国政府、北朝鮮向け放送を全面中止、ハンギョレ新聞、2025年7月23日 ↩
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統一のこだま放送ホームページ(韓国語)、2017年2月15日時点のアーカイブ。2016年12月21日から周波数が変更されること、変更後の周波数は短波6250, 5905, 3970kHz、超短波97.8, 97, 89.4MHzであることが案内されています。ちなみに、周波数変更前の2016年11月20日時点のアーカイブには、短波3970, 6250kHz、中波684kHz、超短波97.8MHzが放送周波数として記載されていました。 ↩
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2017年11月19日に筆者がX(旧Twitter)に投稿していました。 ↩
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統一のこだま放送ホームページ(朝鮮語)、2018年12月25日時点のアーカイブ。2018年11月1日から2019年3月31日まで短波6250, 3945, 3970kHz、超短波97.8, 97, 89.4MHzで放送することが案内されています。 ↩
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統一のこだま放送ホームページ(朝鮮語)、2019年10月21日時点のアーカイブ。2019年11月1日から2020年3月31日まで短波6250, 3945, 3970kHz、超短波97.8, 97, 89.4MHzで放送することが案内されています。 ↩
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10月から 6MHz中心の放送に ~放送送信体制が変わりました~、ラジオNIKKEI、2018年10月1日時点のアーカイブ ↩
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2015年8月15日から2018年5月4日まで平壌時間は日本時間より30分遅く設定されていました。そのため、この期間の放送時間は日本時間では21時30分~23時30分までです。 ↩